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11. おわりに

 一昔前なら国を挙げて優秀なクライマーで大遠征隊を組み、しかも登頂者は限られていたヒマラヤの8000m峰へ、素人の私が登ることができたのは公募隊が受け入れてくれたからである。以下は、高所公募登山に初めて参加した感想である。

ア. 非線形に増大する高所登山の難度

登山の難度を強引に高さの関数とすると、3000mくらいまでの山ではこの関数は例えば1次直線になるが、ヒマラヤのように高い山になると2次または高次曲線になるのではないだろうか。5800mに泊まり好天を待って1日で往復できるアコンカグア(6962m)より5700mで5日間の好天を確信して出発するチョー・オユー(8201m)は格段に難しかったし、8000mで泊まらないと登れないエヴェレスト(8848m)はさらに格段に難しくなることを実感した。

イ. 公募登山隊への参加の心得

今回登頂の可能性は1.体調維持、2.高度順化、3.天候にかかっていると考えていた。3についてBrice氏は長年の経験に加え情報収集にお金をかけている。12について氏は長年培ったプログラムをもっている。このプログラムに乗るために、隊員個々は全力を尽くすだけである。すなわち、登頂の可能性は自分が頼れる隊を選んで(もちろん、相手に拒否権がある)、そのプログラムに身を委ね、体調維持だけは自ら責任を持つことにある。

ウ. 高所登山の普遍化の落とし穴

世界中から集まったチョー・オユーを目指す人は、Brice氏が声をかけて8隊(他の多くの隊は自力だけで登れると断る)で共同して工作したフィックスロープを当たり前のように、また安心して使っている。また氏のように天気を的確に予測できる能力と手段を持っていないので、氏の登頂計画を秘かに探ることになる。まじめに考えると大変恐ろしいことではないか。これを氏が一番心配しており、例えば8隊で工作したフィックスロープに限度を越える人数が身をあずけていると話していた。
他の隊の工作するルートやフィックスロープを前提とする登山はどこかおかしいように思える。ある年突然に氏が公募登山を中止したら、チョー・オユーやエヴェレストに何人登ることができるのだろうか。

 本稿は私が準備段階に分からず腐心したことなどを坦々と記した。写真は軽量で操作が簡単なカメラで撮ったものをスキャナーで電子化したので鮮明でなく、また体調維持のため、休息時にしか撮らないことにしているので、肝心な箇所が抜けた素人写真になっており、この山のすばらしさを紹介できないのがまことに残念である。このような記録をご高覧いただいたことに感謝申し上げ、できればご意見、ご感想を寄せていただければまことに有り難い。
なお、電子化に当たり、若い友人のSさん、Tさん、Yさんにご指導いただいた。さらに、Web化に当たって(株)オルタナティブコミュニケーションズ(http://www.altcoms.co.jp)に美しく、読みやすくしていただいた。記して謝意を表する。

(平成18年10月)

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