山小舎の四季は、多摩のそれとはもちろん同じでない。 私は便宜上、雪道を走るためスタツドレス・タイヤを履いている期間を冬(12月〜4月)、樹や地表が緑で覆われ、庭の炉で焚火ができる期間を夏(6月〜9月)としており、これらの間が短い春と秋となる。 何も四季の区分が日本中同じである必要はない。春は新緑で、秋は紅葉で始まり、また夏以外は小舎を離れるとき凍結を防ぐため水廻りの水をすべて落とすなど、山小舎生活によく合っている。 春の合図は落葉松の芽吹きである。 まず里近くから始まった淡く柔らかな緑の彩りが、連休の頃には標高1,580メートルの山花開に達する。週末に訪ね、たまたまこの僥倖に遭うと、何故か授かった赤ん坊の髪を想い出す。生の喜びが共通するのだろうか。 まずスミレが咲く。何種類かあるようだ。得意でないが山菜が採れ、菌を植えた榾木(ほだぎ)から椎茸も穫れる。落葉松の大木に架けた巣箱にコガラが営巣にかかり、ゲラ類のドラミングが始まり、あっと言う間に緑一色になる。