"蓼科"がどの地域を指すのか、調べてもいない。"立科"は千曲川流域、いわゆるリゾート地として呼称される"八ヶ岳"は富士川流域、"蓼科"の水は諏訪湖に流れ、天竜川に入る程度の理解である。間違っているかもしれない。 農業的には条件不利地域で、水不足や水稲栽培の冷水障害を克服するため、多くの溜池が築造されている。今日有名な白樺湖、女神湖、蓼科湖、御射鹿池もその例である。 ここが高原リゾートに変身していくさまは清水末喜著「白樺、蓼科湖畔ものがたり」で知った。昭和35年5月に八ヶ岳を縦走した後、親湯、白樺湖、車山、美しヶ原を歩いたときの記憶と一致するのは、車山肩のコロボックル・ヒュッテだけである。 開発の是非は別として、私たちはその恩恵を受けている。昭和35年当時の5万分の1地図をまだ持っているが、八ヶ岳登山へのアプローチは短くなって登山が楽になっている。また麦草峠へ林道が通じ、これが諏訪と佐久をつなぐ国道299号線、いわゆるメルヘン街道となり、私たちの山小舎もそのすぐ近くにある。 往復に通る茅野市と原村の農村風景や各戸の庭はすばらしい。高い標高を利用した高原野菜基地でもある。遅れていた圃場整備が近年進み、眺望もよくきくようになり、また創設換地で捻出された用地で道路が整備され、私たちもさらに恩恵を受けている。しかし蓼科で遊び、この道を走行する人たちはこれらが農家の努力と負担の賜物であることを知らない。 蓼科は高原、湖、温泉、別荘地、スキー、登山等と賑やかであるが、私たちのいる別荘地は比較的早く開発されとこともあり、いわゆるリゾート・ブームとは無縁に管理、運営されているのがうれしい。
蓼科はどこも景色がよい。よく耕されている農地、丹精に育てている庭木や庭石のある農家、お地蔵さんや花木のある農林道、背後の落葉松と広葉樹のコントラスト、これらを抱くように拡がる八ヶ岳連峰。 山寄りになると、これに溜池が加わる。特によい場所があるが、季節、時刻、天候にもよる。これは山小舎往復の愉しみである。南アルプスの甲斐駒ケ岳、鋸岳、北岳、仙丈岳、中央アルプスの連山、北アルプスの穂高岳、槍ヶ岳もよく望める。特に甲斐駒ケ岳は蓼科側からが最も美しいのではないだろうか。 最近道路の整備とともにその周辺に新建材の家が建てられるようになった。このすばらしい風景と眺望が傷つけられることがないようにきちんとした土地利用計画が望まれる。